法律演義

ロースクール修了後、企業法務の道へと進んだビジネスロイヤーによるブログ

短答トレーニング 憲法①

❏ 問題



【第1問】

 外国人の人権に関する次のアからエまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、明らかに誤っているものはどれか。

ア. 何人もみだりに指紋の押捺を強制されない自由を有しており、右自由の保障は日本国に在留する外国人にも等しく及ぶものであるが、在留外国人を対象とする指紋押捺制度の目的には必要性、相当性が認められるので、戸籍制度のない外国人について日本人と別異に取り扱ったとしても、何ら憲法14条に違反するものではない。

イ. いわゆる公権力行使等公務員については、国民主権原理に基づき、日本国籍を有する者がこれに就任することを憲法は想定しており、たとえ普通地方公共団体において、公権力行使等公務員に就任するために必要となる経るべき役職について、受験資格を日本国籍を有する者に限定する人事制度を構築したとしても違憲ではない。

ウ. 社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国家の政治的判断に委ねられており、立法府には広汎な裁量が認められているから、たとえ特別の条約が存在したとしても、法律において自国民を在留外国人よりも優先的に取り扱うことも当然に許される。

エ. 我が国に永住する資格を有する外国人であって、その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについては、その意思を地方公共団体の公共的事務に反映させるため、法律をもって地方選挙権を付与したとしても、何ら違憲ではない。


【第2問】

 未決拘禁者・受刑者の人権に関する次のアからエまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、明らかに誤っているものはどれか。

ア. 監獄内における規律及び秩序を維持する目的等を達成するためには、未決拘禁者の身体的自由に一定の制約を加えることも許されるが、右制約を加えるに当たっては未決拘禁者の人権保障を最大限に配慮し、右目的との関係において必要最小限度のものにとどめなければならない。

イ. 新聞紙・図書等の閲覧の自由は、憲法19条や21条の規定等からの派生原理として当然に憲法上保障されるべきものであり、未決拘禁者にもその保障が及ぶが、これに優越する公共の利益との関係において、一定の制限を受けることがある。

ウ. 未決拘禁者の閲読の自由に対する制約は、当該閲読を許すことにより、監獄内の規律や秩序が害される一般的・抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存在しなければならない。

エ. 受刑者による信書の発受の制約は、種々の具体的事情の下で、これを許すことにより、監獄内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄確保、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存在しなければならない。


【第3問】

 プライバシー権に関する次のアからエまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、明らかに誤っているものはどれか。

ア. 学籍番号、氏名、住所及び電話番号といった情報は、個人識別を行うための単純な情報であって、決して秘匿性の高いものとは言えないが、本人が、自己が欲しない他者にはこれを開示されたくないと考えるのは自然なことであり、そのことへの期待はプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。

イ. みだりに容貌等を撮影されない自由は公共の福祉による一定の制約を受けるものであるが、捜査機関が犯罪捜査のために現に罪を犯した者の容貌等を撮影することについて許容されることはあっても、犯人の近くにたまたまいた被疑事実と全く関係のない第三者の容貌等を撮影することは許されない。

ウ. 前科及び犯罪経歴は人の名誉・信用に直接関わる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有し、市区町村長が漫然と弁護士照会に応じ、犯罪の種類・軽重を問わず、前科等の全てを報告することは公権力の違法な行使に当たる。

エ. 自己の容貌等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有するものであり、これを公表する行為が社会生活上の受忍限度を超えた場合、違法と評価されることもありうる。


【第4問】

 法の下の平等に関する次のアからエまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、明らかに誤っているものはどれか。

ア. 租税法の定立については、立法府の政策的・技術的判断に委ねるほかないため、租税法分野における別異取扱いについて、立法目的が正当であり、当該立法に基づく別異取扱いが立法目的との関連で著しく不合理であることが明白でない限り、憲法14条1項に違反するということはできない。

イ. 憲法が地方公共団体の条例制定権を認めている以上、地域によって取締の態様が異なるなど、差異が生じるのは当然であり、かかる差別については憲法自体が容認していると理解されるべきものである。

ウ. 現代における国民の婚姻、家族の在り方に対する意識の多様化、国際的環境の変化等を考慮すれば、法律婚主義を支える立法事実はもはや失われており、非嫡出子の相続分について差別的に取り扱った民法900条の規定は合理的根拠のない別異取扱いであって、憲法14条1項に違反する。

エ. 生来的な国籍の取得は出生時に確定的に決定されることが望ましく、出生後に認知されるか否かは未確定であるから、子の出生時に父母両系が日本国民であることを要求し、出生後の認知だけでは生来的な国籍取得を認めないとする国籍法2条1号の別異取扱いには合理的根拠があると言える。




解答


【第1問】

正解:ウ

最高裁平成元年3月2日判決は、憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なる概念の多義性や国家の政策的・財政的判断を要する側面などに言及し、立法府に広い裁量があることを前提としており、在留外国人との関係においても国家の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、「限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される」としている。もっとも、「社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、…その政治的判断によりこれを決定出来る」と述べ、特別の条約が存在すれば、立法府の裁量にも影響を及ぼす可能性を含ませている。ゆえに、特別の条約が存在しても「当然に許される」としている点で本肢は誤りである。


【第2問】

正解:ア

いわゆるよど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭58.6.22)において、最高裁は、監獄内の規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する目的等を達成するために、未決拘禁者の身体的自由その他の行為の自由に一定の制限が加えられるとしており、本肢前段は正しい。しかし、右制約が「必要最小限度」のものでなければならないとは論じておらず、「これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を衡量して決せられるべきもの」として比較衡量によって判断すべきことを明示している。ゆえに、本肢後段は誤り。


【第3問】

正解:イ

最高裁昭和44年12月24日大法廷判決は、何人もみだりに容貌等を撮影されない自由を有するものの、右自由は無制限に保護されるわけではなく、公共の福祉のために一定の制限が及ぶとしており、その許容限度としていくつかの要件を挙げた上で、そのような態様で行われる限り、「警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになっても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである」としている。


【第4問】

正解:ウ

最高裁平成25年9月4日大法廷判決は、現代における国民の婚姻、家族の在り方に対する認識の多様化、国際情勢の変化等に触れ、法律婚主義を是正する方向で嫡出子と非嫡出子との間に存する区別を解消するような立法措置が推進されてきたというニュアンスを残しつつ、結論として、相続分に関して非嫡出子と嫡出子との間に区別を設けることには合理的根拠がないとして、民法900条4号ただし書は憲法14条1項に違反しているとしたが、法律婚主義を支える立法事実が失われているとまでは論じておらず、「法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても」と言及しているところを見ても、少なくとも法律婚という制度を維持する形で違憲判断を導いていると言える。ゆえに、本肢は誤り。

取締役の報酬

取締役の報酬


 論文試験などで取締役の報酬について問われた時、早々に361条を持ち出してきて、特に何も考えずに「取締役の報酬を決定するには株主総会決議が必要となる」といきなり抜刀する人がいる。そんな人は、ひとまず330条まで戻って、会社と取締役の関係について再度検討して欲しい。

 この条文にある通り、会社と取締役は委任関係に立つとされており、会社(株主総会)が取締役を選任するに当たり、任用契約が締結される。この任用契約において報酬額を定めるのが普通である(というより、報酬額も分からずに取締役に就任する人などいないだろう)。もし、これが一般私人間における委任契約や雇用契約であったならば、当事者間の合意によって報酬債権や給与債権が発生し、かかる具体的請求権を根拠に契約の相手方に対して請求を行うことになる。ところが、会社法においては、会社と取締役(あるいは取締役同士)の馴れ合いにより、不当に過大な報酬が支払われ、株主の利益を毀損する危険性がある。そのために、取締役の報酬については、株主総会によるチェックを必要としたのである。


 それなら冒頭において述べた論証は何ら間違ってはいないではないか、と言われるかもしれないが、361条1項本文には、報酬等に関する金額・算定方式について、「定款に当該事項を定めていないときは」という留保が付いている。実際、「一人会社」や「経営者を株主と同視しうるような会社」の定款を見ると、報酬額がきちんと定まっていることがたまにあり(それらのほとんどは固定報酬である)、定款で具体的金額が定まっている以上、株主総会決議を経ずとも、定款の規定によって具体的請求権は発生しているということになろう。このような小規模企業や取締役の交替が当然には予定されていない同族会社においては、取締役の報酬について法的問題が生じる可能性は低い(但し、所有と経営がほぼ一致している企業においては、取締役会への一任決議の可否という問題がある)。


 そのような事情を踏まえると、取締役の報酬に関する問題は、取締役の変更が当然に予定されているような公開会社・大会社において顕著なものであるといえる。何故なら、取締役の交替が当然に予定されているような会社の場合、任用契約で定まった報酬をその都度定款に記載するには、定款変更という煩雑な手続が必要であり、「取締役の報酬及び退職慰労金は、株主総会の決議によって定める」というような規定を設けるのが普通だからである。それゆえに、株主総会決議を経る必要性が生じ、後述するような複雑な法律問題が顕出する。なお、このような会社における取締役に対して固定報酬の支払を約することは、取締役の能力・実績・モチベーション等の諸般の事情を一切無視して、全取締役をその個性に着目せずに一律に扱っている点で非現実的と言う他はなく、定額の報酬で雇うことは、「だめな契約」と揶揄されている(田中亘『数字でわかる会社法』初版・74頁)。固定報酬については、その他様々な論難が加えられており、取締役の報酬については、①会社の当期利益に応じて報酬額が変動する業績連動型報酬や、②インセンティブ報酬としてのストック・オプションが採用されることが多い。事実、東京証券取引所の調査によると、平成22年9月10日時点において、上場企業の約3割がストック・オプションを実施し、約2割が業績連動型報酬制度を実施しており、東証上場会社の半数以上が、取締役との間でこのような成果連動型契約を締結している(前掲田中・81頁、東京証券取引所『東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2011』53頁)。


株主総会の役割


 前述のとおり、取締役の報酬を定めるに当たって、株主総会が担う役割は大きい(その役割の大きさゆえに、取締役会への一任決議の可否といった論点が存在する)。

 筆者がここで特に問題としたいのは、361条1項2号「報酬等のうち額が確定していないもの」である。例えば、1号の「額が確定しているもの」のうち、固定報酬であれば、その金額を明示すれば済む(もっとも、株主総会では全取締役の支給総額のみを決議し、個々の取締役への具体的配分については取締役会に委ねるのが普通である)。退職慰労金のように、在任中の功績などを考慮してその額を確定するものについては、支給総額、根拠となる算定基準などを明示もしくは黙示すれば、取締役のお手盛りを防止出来るとして取締役会への一任が可能とされており、株主総会が判断に迷うことは少ない(判例においては、退職慰労金の支給に関する慣行・内規によって一定の支給基準が確立され、且つ、株主がこの慣行・内規の存在を知り得べき状況にあったことを要するとしている)。


 他方、2号の「額が確定していないもの」については、将来生じる事実関係に対応して金額が決定されるもののことをいい、東証上場会社の約半数が採用しているストック・オプションや業績連動型報酬などがこれに当たる。ストック・オプションについては、株主総会決議時に公正価格が算定できる場合やストック・オプションの公正価格の最低限度を予め定めておくような場合には、1号に当たるとする見解もあるが、ストック・オプションの経済的実質は、株価上昇時に新株予約権を行使して利益を得るものであり、その制度全体を見た場合に、これを「額が確定していないもの」として捉える方が妥当だろう(神田・211頁以下)。

 そして、2号の「額が確定していないもの」として株主総会で決議する場合、そこで決議されるのは「具体的な算定方法」である。勿論、その算定基準に照らして報酬額が一義的に算出されるようなものでなければならないが、ストック・オプションを付与された取締役が、株価を釣り上げるために虚偽の利益計上などに加担しかねず、株主総会は、お手盛り防止だけでなく、取締役による計算書類の虚偽記載等にも注意を払わなくてはならなくなり、その負担は極めて大きい。現在、ストック・オプションや業績連動型報酬以外にも、業績や貢献度を勘案したインセンティブ付与を実施している企業は非常に多く(前掲東京証券取引所・54頁以下)、今後の役員報酬規制の議論の中心は、こういった成果連動型契約に移行していくであろう。もし、司法試験の論文試験で、このような問題が出題されれば、従来までの議論に加え、計算書類への虚偽記載責任(429条2項1号ロ)などを論じる必要が生じてくるかと思う。


取締役の会社に対する報酬請求


 判例は、報酬請求権について、「定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生」しないとしており(最判H15.2.21)、取締役会への一任決議があった場合についても、「その金額を決定する取締役会の決議があって、初めて発生する」としている(東京地判H10.2.10)。これらの判例を俯瞰するに、具体的な報酬金額が定まって、それが株式会社の権限ある機関で最終決定がなされない限り、契約内容にはならないという立場を採っているものと思われる。但し、一任決議があったにも関わらず取締役会決議を懈怠しているような場合には、不法行為責任や任務懈怠責任の成立を認めた判例もある(東京地判H10.2.10、東京地判H6.12.20など)。


 定款又は株主総会決議(あるいは一任された取締役会決議)によって具体的な額が決定されなければ、報酬請求権が発生しないというのは、会社法の制度趣旨の上では理解できる。しかし、既に退任した取締役などの場合、退職慰労金が株主総会に議案として上程されないリスク、取締役会が決議することを懈怠するリスクと常に背中合わせの状態にあるということになり、その地位は極めて不安定である。他方、判例は、一度具体的な金額が決定された報酬については、その後取締役の職務内容に著しい変更があったとしても、これを無報酬とすることは出来ないとしている(最判H4.12.18)。一体この差は何なのだろうか。

 いくら会社法が361条によって取締役の報酬について規制を及ぼしたとしても、取締役の持つ報酬請求権の基底的根拠は任用契約である。この任用契約の趣旨が、選任から退任(あるいは解任)まで貫かれているとするならば、途中に介在する株主総会決議は、その内容の適否を判断するチェック機能だけを果たしているに過ぎず、報酬請求権発生の具体的根拠とすることにはならないのではなかろうか。報酬請求権の究極的根拠を任用契約に求めているからこそ、判例も、簡単には事情変更の原則を認められなかったのではないかと思う(ここでの事情変更とは、ハイパーインフレーションなどの極めて特殊なケースだけを指す。大杉謙一『事例で考える会社法』58頁)。実際、判例の中には、「会社と取締役の法的関係が委任ないし準委任関係にあり、明示又は黙示的に報酬を与える特約が存在するとしても、報酬額が定款又は株主総会の決議により定められない限り、具体的報酬請求権は発生しないが、右株主総会決議が公序良俗に反するような場合には、右報酬請求権が発生すると解する余地がある」と判示したものもある(東京地判H9.8.26)。これは傍論部分であり、「公序良俗に反するような場合」というのが一体どのような状況を指すのか明らかではないが、必ずしも定款又は株主総会の決議によらずに、報酬請求権の発生の可能性を示したものとして一見の価値があると思われる。

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